大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成5年(ネ)3066号 判決

主文

一  本件各控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

一  当事者の申立

1  控訴人ら

(一)  原判決を取り消す。

(二)  被控訴人の請求をいずれも棄却する。

(三)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文同旨

二  当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

1  当審における控訴人らの新たな主張

本件土地につき本件根抵当権の設定契約が締結された昭和五〇年七月二九日当時、本件土地上には控訴人河瀬所有の軽量鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平屋建建物(以下「旧建物」という)が存在し、同建物にも本件土地と共同担保として根抵当権が設定されていたところ、その後控訴人河瀬は、右根抵当権者である東洋信用金庫の了解を得て、旧建物を取り壊し、同金庫から、平成二年の終わりころから平成三年初めころ本件土地上にビルを建築することの承諾をも得たので、同年一一月二〇日本件土地を控訴人会社に賃貸し、同会社は、平成四年一〇月一六日に本件土地上に鉄骨造陸屋根三階建店舗倉庫(以下「新建物」という)を建築した。従って、昭和五〇年七月二九日に本件土地に本件根抵当権が設定された時点では、本件土地につき法定地上権成立の要件が充足されており、根抵当権者は、本件土地については、法定地上権の負担付きの価格、すなわち本件土地の更地価格から法定地上権の価格を控除した底地価格しか把握していなかった。従って、根抵当権者の承諾を得て、旧建物を取り壊して新建物を建築した本件の場合には、新建物のために法定地上権が成立するというべきである。

2  当審における控訴人らの新たな主張に対する被控訴人の答弁

右主張事実のうち、昭和五〇年七月二九日に本件土地につき本件根抵当権の設定契約が締結された当時、本件土地上には控訴人河瀬所有の旧建物が存在し、同建物にも共同担保として根抵当権が設定されていたこと、控訴人河瀬が根抵当権者の了解を得て旧建物を取り壊したこと、その後控訴人会社によって本件土地上に新建物が建築されたことは認めるが、右新建物のために本件土地に法定地上権が成立するとの主張は争う。

旧建物については、滅失を原因として平成元年二月一三日付で滅失登記がなされ、同日付で本件根抵当権の共同担保目録から抹消された。根抵当権者である東洋信用金庫は、右旧建物取り壊し後、本件土地を更地として再評価し、本件根抵当権の極度額を順次増額変更してきた。東洋信用金庫は、控訴人らに対し本件土地上に新建物を建築することを承諾したことはない。従って、本件土地につき新建物のために法定地上権が成立することはない。

三  証拠(省略)

理由

一  当裁判所の判断は、当審における控訴人らの新たな主張に対する判断として次のとおり付加するほかは、原判決の理由説示のとおりであるから、これを引用する。

昭和五〇年七月二九日に本件土地につき本件根抵当権の設定契約が締結された当時、本件土地上には控訴人河瀬所有の旧建物が存在し、同建物にも同土地と共に共同担保として根抵当権が設定されていたこと、控訴人河瀬が右根抵当権者である東洋信用金庫の了解を得て(証人山崎和雄)旧建物を取り壊したこと、その後控訴人会社によって本件土地上に新建物が建築されたことは、当事者間に争いがなく、証拠(甲一一、一二の1ないし4、証人山崎和雄)及び弁論の全趣旨によれば、旧建物については、滅失を原因として平成元年二月一三日付で滅失登記がなされ、同日付で本件根抵当権の共同担保目録から抹消されたこと、そこで根抵当権者である東洋信用金庫は、本件土地を更地としてその担保価値を再評価し、本件根抵当権の極度額を、平成元年八月二九日には一億円に、同年一〇月二〇日には一億四〇〇〇万円に、同二年一〇月二五日には一億八〇〇〇万円に、同三年四月一七日には二億一〇〇〇万円にそれぞれ増額変更したこと、本件根抵当権設定契約当時、同契約当事者のいずれにおいても近い将来旧建物を取り壊して新たに建物を建築することを予定していたわけでもなく、また、東洋信用金庫は、控訴人らに対し、本件土地上に新建物を建築することを承諾したことはないことが認められる。

右事実によれば、根抵当権者である東洋信用金庫は、旧建物取り壊し後は、本件土地を更地として担保価値を算定して極度額の増額変更に応じてきたものであり、また本件根抵当権設定当時新建物の建築を予測していたわけではないし、控訴人らに対し本件土地上に新建物を建築することを承諾したこともないのであるから、本件土地につき新建物のために法定地上権の成立を認めることは右抵当権者に不測の損害を被らせることになり、右法定地上権の成立を認めることはできないというべきである。

二  そうすると、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当であり、本件各控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例